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日常生活起った徒然事を記録しています
孟夏の太陽
2007年12月14日 (金) | 編集 |
週は、月・水・金と、一日置きに忘年会。今日の忘年会が漸く最終ラウンドです!
編み物もビーズもノンビリ出来ないので、旦那様不在or待ちの夜は、もっぱら読書してます。最近は、ちくま学術文庫の「史記」を読み返し中。気の向くままにあれこれと調べているうちに、ふと読みたくなって実家から持ってきてしまった「孟夏の太陽」を紹介します。

私が宮城谷氏の小説を読むとしたら、それは父の蔵書でした。「重耳」「孟嘗君」「晏嬰」「楽毅」・・・長編は、全て父が買い求めたものです。「孟夏の太陽」は、「花の歳月」とともに、学生時代に自力で買った小説です。学生であまりお金ありませんし、自分で買えるのはこの位の短編のみでしたね。「孟夏の太陽」はツボにハマってしまい、お風呂に持ち込んで読んでいたので、ふやけてボロボロになってます・・・。
孟夏の太陽 (文春文庫)孟夏の太陽 (文春文庫)
(1994/09)
宮城谷 昌光

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四つの短編からなるオムニバス形式の小説です。舞台は春秋時代で、主人公となっているのは晋の四卿・趙氏の歴代棟梁です。趙盾「孟夏の太陽」・趙朔「月下の彦士」・趙鞅「老桃残記」・趙無恤「隼の城」、全て繋げて1つの小説にしてしまっていも良い気がしないでもありません。また、「月下の彦士」や「老桃残記」では、主たる趙朔・趙鞅の印象がやや薄く、2作の間に生きた名宰相・趙武の事績は、取り上げられていません。「月下の彦士」の最後と、「老桃残記」の冒頭・回想シーンに、わずかに登場するだけです。
宮城谷氏は、この四作で描き出したかったのは、人と人が信じあった時に歴史が動く、という事。身を賭して誰かを助けること---Service and (Self) Sacrificeの美しさ、ではないでしょうか。信じる誰かの為に、自分の大切な何かを捨てるという行為は、国や時代を超えて人々の琴線に触れるものですから。史料のベースになっているのは、「史記」でしょう。司馬遷は義侠の士を好んだと見えます。広大な歴史の海から、美しい珠を掬い上げるようにして、随所に彼らの名を残しました。それを、宮城谷氏が咀嚼し、現代の日本人に伝えたのです。

四作の中で一番好きなのは、やはり「月下の彦士」ですね。程嬰と公孫杵臼の二人が、命をかけてみどりご・趙武を守り、趙氏復権を実現させる姿に、だれもが感動するはずです。ストーリー骨子は「史記趙世家」ですね。ふたりの義士が趙氏孤児を守る部分は、史記の中でも多分にストーリ性に富んでおり、おもしろい部分です。其の旨みを損なうことなく、さらに美味しくしたのが、この小説です。
次に好きなのは最後の作品「隼の城」。趙襄子が主人公です。
中国史上最初に「水攻め」を導入したといわれる天才的軍事家の知伯(=じゅん・よう、文字コードの都合上漢字が出せません)は、その名のとおり知氏の嫡子です。背が高く膂力に秀で、容貌麗しく、文に通暁し雄弁。何から何まで持っている人物です。しかし、ただ1つの欠点が「驕慢」だというのです。その為に彼の身だけではなく知氏が衰亡するだろう、と危ぶんだのは彼の叔父である知果でした。無恤は知伯とは逆に、母は卑賤の女です。容貌は醜く、性格もどちらかというと暗い人物です。勿論嫡流ではありません。いまいちパッとしない彼の優れた美点は「恥を耐え忍ぶ事が出来る」という点でした。才知溢れる知伯は、たった1つの欠点ゆえに裏切りに遭い一族諸共滅びます。いっぽうの無恤は、異母姉・代妃の恨み、知伯の陰湿なイジメ等、すさまじい懊悩と恥辱を耐え忍び、知伯を討ち、戦国時代の幕を切って落とす事になったのでした。ただ1つの美点を貫きとおす事で、大事を成し遂げたのです。

与える事のよろこび、恥を忍ぶという行為は、現代日本社会において、すでに忘れ去られたきらいがあります。企業モラルの低下がつぎつぎと露見した2007年。一流あるいは老舗と呼ばれた企業・店舗の没落は、他人への恤みを忘れたがゆえの、当然の結果と言えましょう。最近は、医師・看護士の不足が叫ばれていますが、医療業務に携わる人物が減った一因に「モンスター・ペイシェント」と呼ばれる自己中な患者達の存在が挙げられましょう。自分のみの便宜を図らんが為に暴れる彼等は、まさに自らの命を縮めていると、言えなくはないでしょうか?

これでもか、というほど多くの才能に恵まれた人物というのが、歴史上に時々登場します。しかしかれらの多くは驕り易く無慈悲で、最終的には失敗しています。史上にウンザリするほど前例があるにもかかわらず、驕慢から身を滅ぼすという惨事(?)は現代まで繰り返され、決して改められる事がありません。本当に、不思議なことですね(笑)。

この本は、他作品と比べ平易なことばで書かれていると思います。辞書にお世話になる回数が少なく読みやすい気がします。とはいえ「さすが!」と唸らずには居られない、丁寧な作業の痕跡が随所に散見されます。史書検証、漢語の取捨選択の丹念さ。この2つは私が歴史小説を読む上での楽しみの一つとなっています。「月下の彦士」のクライマックス、みどりごの趙武替え玉が殺されるシーン。公孫杵臼の言葉として、「史記」趙世家に記されている台詞は
──抱児呼曰、天乎天乎、趙氏孤児何罪。請活之、独殺杵臼可也。
「月下の彦士」において杵臼が、なんと言っているかは読んで確かめて頂きましょうか。史記の物語性の高さを改めて感じると同時に、氏が注意深く漢字とかな文字を選んでいる事が、よくわかります。

ピンポイントで中国史上の義士を取り上げた作品は数多くあります。「歴史に隠れている『侠』を拾い上げることが私の使命」と仰る、陳舜臣氏の諸作品が、宮城谷氏とともに有名でしょう。陳氏の小説のほうが、読みやすいかもしれません。鄭問氏の漫画、「刺客列伝」「東周英雄伝」は、ヴィジュアル面でも楽しめて良いと思います。全編筆で書かれているという、変わった漫画です。圧倒的な画力に引き込まれてしまう事請け合い。デッサンも稚拙なアニメ調の絵が大嫌いな私にとって、オアシスの様な漫画ですw
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テーマ:文学・小説
ジャンル:小説・文学
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2007/12/14(Fri) 19:02 |   |  #[ 編集]
>匿名希望様
匿名コメントはサイドバーに表示されず見逃しやすいので、極力記名のコメントをお願いしますー。
2007/12/25(Tue) 15:59 | URL  | tama #-[ 編集]
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