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ふぉん・しいほるとの娘
2008年03月18日 (火) | 編集 |
12月~2月は交際遊興関連で出費が多く、緊縮財政でした。3月は多少余裕がありそうなので、また本を何冊か買って読んでいます。
吉村昭著「ふぉん・しぃほるとの娘」。
上下巻とも700頁近い、氏の小説の中では一番の長編ものです。やっと読み終わりました。

この本は、シーボルトの娘で、日本で最初の産医・楠本イネの生涯を描いた本です。彼女を軸に、母タキ、娘高子の人生もイネの目を通して描いています。幕末~明治と、女性にとっては非常に窮屈で、多くの屈辱を味合わされながら生きなければならなかった時代。激動期をなよ竹のように、強く美しく生きた3人の生き様には、驚きを禁じえません。

この母娘は、3人揃って類無き美貌の持ち主だったのだそうです。熟年期のイネ・若奥様の高子は写真が残っています。なるほど、道を行けば誰もが振り返りそうな美人です。母のタキはさすがに写真はありませんが、シーボルトが新種の紫陽花に「オタクサン(=おタキさん)」と、タキの名前をつけた事から、大変に美しかったのでしょう。
3人の中で誰が一番美しかったのか?というと、やっぱりイネだったような気がします。ドイツ人と日本人のハーフであるイネは、どこの国の人とも言い難い、エキゾチックな美貌をしています。彼女に恋心を抱いた男は、星の数ほどいたかも知れません。
しかし、それ程の美貌を持ちながら、イネは生涯誰とも結婚しませんでした。イネ自身が、数奇な運命の元に生まれた自分には、適齢期に男へ嫁す以外の道がある、と考えていたのが独身を通したおもな理由のようです。しかし、多感な少女時代に時代、教えを受けていた師にレイプされて身篭るという屈辱を受けた事が大きなトラウマとなってしまったのではないかと思うのです。
イネは19歳の時に、医術の師であり父の高弟であった、石井宗謙に強姦され、娘のタカを身篭りました。自分を強姦した師が教えた妊娠の兆候。それがつぎつぎ我が身に現れ、日に日にお腹の子が育ってゆく・・・。彼女は狂痴を呈します。イネが味わった恐怖と嫌悪は、知識あるがゆえに知らざるもののそれを遥かに凌駕した、と思います。
「望まれて生まれる子ではないのだから」と、イネは産婆の介助を拒否し、タダを一人で産み落とします。臍の緒をみずから切り裂く場面は、涙が止まりませんでした。イネは心優しい女性でしたが、大変に気性が激しい女性だったようです。レイプは道義的に非難されるべきものでしたが、法的取り締まられていた訳ではない江戸時代。犯された女は、泣き寝入りするほかはありませんでした。夫の不始末を泣いて詫びる石井の妻には憐憫の情を禁じえずにいましたが、石井本人には「人でなし!」と大声で罵詈を浴びせかける激しさを見せます。

タダを生んでからも、イネの葛藤は続きます。自分を犯した男は心底憎いけれど、生まれてきたタダに、罪は無いのです。生まれてくる子供は、親を選ぶ事は出来ません。母から愛を与えられぬタダを不憫に感じつつ、タダを愛せない自分に、イネは長らく苦しみ続けるのです。そんなイネをかげながら支えていたのは、母のタキでした。タキは、シーボルトが国外追放となり離別、その後再婚しました。相手の夫はひとつ年下の、穏やかで優しい男性でした。身も心も愛され、タキは暫し女の幸せを噛締めるのです。愛し合う二人の間に待望の長男が生まれますが、長男・一は弱く夭折、ほどなく夫も病死。若くして未亡人となってしまうのです。遊郭にいた頃から容姿端麗さを讃えられ、多くの男を惹きつけたタキでしたが、女としての幸せは、長く続かなかったのです。

産医として働きつつ、イネは娘の高子が遭遇する過酷な運命に悩むようになります。不幸なめぐり合わせで生まれた娘・高子の幸せを、イネは心から願っていました。しかし、高子は、強姦されて子を孕んだ母イネの苦渋と、夫に先立たれて未亡人となった祖母タキの悲しみの、両方を味わう事になるのです。
二人の夫に先立たれて、呆然と「私は、つくづく男運の無い女です」とつぶやいた高子に、母タキの悲哀をみます。高子は一方的に懸想した男に強姦され、男の子を出産。やつれはて、懊悩する高子を、イネは母のタキが労ってくれた様に癒そうとします。同じ苦渋を味わい、同じ悲哀を傍で見て来た女・イネの優しさと強さが伝わってきます。男の従属物に過ぎない江戸末期の女の悲哀、逆境におかれて助け合う女たちの健気さが、抑えた筆致で描かれています。抑えているがゆえか、女たちに課せられた運命の過酷さと悲喜が、胸に突き刺さってきます。

神は確かに、この母娘達に苛烈な運命を背負わせました。しかし、タキも、イネも、高子も、その運命から決して逃げる事はありませんでした。母と娘が、姉と妹が、友と友が支え合い、多くの苦難を乗り切るべく尽力し、激動の時代を生き抜いたのです。苦しくなったら、すぐ逃げる。叱責を恐れすぐに言い訳をする。他愛ない事ですぐ弱音を吐く。そんな現代人を、彼女達は天上から笑いながら眺めているのではないでしょうか。

そういえば、渡辺淳一著「花埋み」の荻野吟子が、日本最初の女医とされてたような・・・??イネさんは、どうなるんでしょうねぇ。記憶違いかな。「花埋み」は、10年ほど前・高校生の頃に読んだ本なので、記憶が聊か曖昧で・・・。今度調べてみよう。

次読むのは、「花神」か、「竜馬のもう一人の妻」か。長編読了後だから、短編の「竜馬のもう一人の妻」にしようかな^^



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テーマ:読書感想文
ジャンル:小説・文学
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